電車/ゆるこ
 
雨の日の電車はさながら異空間である
外からは紫色の魚がプランクトンをつつくように群れ
中には放心状態になったぼやけた人々がずぶ濡れになった四肢を
無言で時折ぶるりと震わしている

そんな静寂の中にいると
わたしはなんだか発狂したくなるが
傘の先から生えた青白い芽をみると
なんだかだんまりしてしまう

しとしとと湿度を上昇させながら
か細い女の子の白いワンピースを濡らしていく苔のような緑の液体が
血走った目をしたサラリーマンの口からこぼれていることは
多分わたししか、知らない

とうとう棒になってしまった両足を
震わせながら立つ名無しのカカシは
いつまでドロシーを待つのだろうか
手に持つ分厚い本にその地図はのっているのだろうか


そんな宇宙を見つめていると
いつしかわたしの日常に
ゆっくりと減速をしながら
近づいていく、ずぶ濡れになった電車の車輪


わたしは名残惜しく、軋みながら
整備されていない体を動かし
透明な傘をさしながら
じゃばりと、陸に打ち上げられた
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