ア、雨/あ。
 


もう一度だけ白い花びらに視線を移すと
すぐに背中を向けて走り出した
足元で水たまりがぱしゃぱしゃと軽い音を立てる

家に帰ると扉を閉めて
洗い立てのバスタオルで髪を拭いた
服を着替え、ベッドに飛び乗るように倒れこむ
かぎなれた自分の匂いがした

わざわざしんどい道を選ばなくても
歩きやすいほうが近ければそっちを選ぶ
苦しいことが美徳だとは思わない
楽に生きることを愚かだとも思わない

ア、雨だなんて軽く呟けるなら
こんなに幸せなことはないんだ

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