バター・クリーム/フユナ
いいえ、
私の家は小さなパン屋をやっていたの
海の近くの
海といっても砂浜はなくて
ただひたすらに工場が立ち並んで
そこから荷物を運ぶ踏切のある路地に
オレンジと黄色の屋根のついた、ね
そんなパン屋だった
誰が来るわけでもなかったわ
店の脇の電柱には小さな紫の花が咲いていて
そこはいつ見ても豪勢なものだった
水分がね、与えられてたから
わかるでしょ?
誰と食べた訳でもないわ
でも、このバター・クリーム
なにが楽しかったわけでもないのに
海がね、
きれいだった
夏になってもあそぶこどももいない
家の目の前に広がる
ただの 海
雨が降ると
ほこりのついた窓越しに見えたの
ショーケースにはいつも
ケーキなんてなかったわ
パンだってなかったのに
ケーキなんてあるわけがない
けれど
どうしてかしら
このバター・クリーム
このバター・クリーム
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