探 偵/塔野夏子
探偵の黒い傘を雨が濡らす
探偵の薄いコートを風が揺らす
探偵は心のアリバイについて考えている
立ち並ぶ街路樹 街灯
探偵は歩きながら考えている
そう 心はそのときそこには無かったはずだ
ではどうしていたか? なつかしい場所へと
飛んでいたかもしれず わけもなく
悲しんでいたかもしれず――
わけもなく? いいや わけはあるはずだ
だがそれは何だろう?
雨に滲んだ信号が赤に変わる
探偵は立ち止まる
心はそのときそこには無かったと
どうやって証せばいい?
ただ単に薔薇に見とれていただけかもしれない
その薔薇は何色の?
あるいは週末の約束について
考えていた
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