高原詩編/右肩良久
とに、それぞれ犬が顔を突き出している。時折低く唸る以外にはまるで鳴こうとしない。それらがみな口にものの魂を銜えているからだ。魂はゼリーのように甘く軽い歯ごたえを持ち、プルプルと全身で力強く身悶えている。犬は草原の彼方から僕の体の臭いを嗅ぎとりつつ、無表情に咀嚼を試みる。残念ながらあまりに遠くにあって、僕からは一つとして彼等を視認できないでいる。石のホテルが窓からギラギラと光を尖らせるのがわかるだけだ。だが犬は上下の歯列の間へと巧妙にものを捉え、大きく顎を動かしている。つまりこれが咀嚼というものである。
そして僕に連れだって歩いているのは、モノのようでもあり、自分の感情のようでもあり、誰かの記憶のようでもあった。ここでは本来無いものがいつの間にか形を作ろうとするのだ。たぶんそうだ。半円に少し欠ける月が東に浮き、星が三つ出ている。
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