高原詩編/右肩良久
 
 昼間、光の底に沈んでいた高原の花が光を放ち始めている。引き潮の海が磯濱の窪みに取り残されるように、失われていく光が花をわずかに濡らしているのだ。白い花は白く、紫は紫に、黄は黄に。葉や茎は暗い空気と分かちがたい深緑に沈んでいるが、花だけは光って高原一面に広がっていく。

 夏時間の十時を過ぎても、薄明るい空が残っている。僕の歩く起伏は呼吸する女性の裸の腹だ。草の道。暮れにくい夜。沈んだ太陽の残光に赤かった岩山が、今ようやくぼんやり黒みがかったシルエットになっている。それは遠く世界のきわに、輪郭をにじませてかろうじて染みついていた。話すべきことは何もない。時々強からぬ風がかすかにものを震わせるほ
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