「つめを噛むのをやめなさい」/ベンジャミン
 
めのような棘が
いつもちくりと胸を刺していて
その痛みを感じると
ついつい唇を噛んでしまうから
冬でもないのに
荒れた唇からは血が滲んでしまう


(ねぇ つめを噛んでも血は流れないよ
 唇からはその色よりもあかい血が流れるのに)


つめを噛むのをやめなさいと怒られても
唇を噛むのはやめなさいと怒られないで
その違いを埋めることもなく
噛まれることのないつめはのび
噛まれた唇はすり減って
けっきょく語られない理由は行き場もない

たとえば今つめを噛んで怒られても
それはもう大人なんだからと
別の理由に置き換えられてしまいそうで
だからつめを噛んだりはしないけれど


(つめを噛むのをやめなさいと怒られても
 隠れて噛んでいたのはどうしてなのか)


どうしてだろう
どうしてつめを噛んでいたのだろう

ときおり忘れそうになるその答えを
いまでもこころにかかえたまま

僕はただ唇を噛む
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