「つめを噛むのをやめなさい」/ベンジャミン
めのような棘が
いつもちくりと胸を刺していて
その痛みを感じると
ついつい唇を噛んでしまうから
冬でもないのに
荒れた唇からは血が滲んでしまう
(ねぇ つめを噛んでも血は流れないよ
唇からはその色よりもあかい血が流れるのに)
つめを噛むのをやめなさいと怒られても
唇を噛むのはやめなさいと怒られないで
その違いを埋めることもなく
噛まれることのないつめはのび
噛まれた唇はすり減って
けっきょく語られない理由は行き場もない
たとえば今つめを噛んで怒られても
それはもう大人なんだからと
別の理由に置き換えられてしまいそうで
だからつめを噛んだりはしないけれど
(つめを噛むのをやめなさいと怒られても
隠れて噛んでいたのはどうしてなのか)
どうしてだろう
どうしてつめを噛んでいたのだろう
ときおり忘れそうになるその答えを
いまでもこころにかかえたまま
僕はただ唇を噛む
戻る 編 削 Point(5)