冷えたカレーライス/殿岡秀秋
小学校から帰ったぼくに
「今夜はお母さんの店で夕食だぞ」
と微笑みながら次兄がいう
長兄が帰ってきたところで
兄弟三人で冬の夕方の千住の町を
母の店に向かった
今夜は母と一緒の夕食だ
店で食事するのははじめてだ
どんな料理が出るのだろう
お客さんのようになるのかな
とぼくは想像していた
日曜日には
溜池に釣りに行こうと
兄たちの話も
足取りも
小魚のように跳ねていた
小料理屋について裏手にまわった
もうあたりは暗かった
店には明かりがついている
客の男の高い話し声がする
母の明るい声がこたえる
裏口の扉を少しあけて
長兄が遠慮がちに声をか
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