鶴見/狸亭
生まれた街は遥か遠い被膜に遮られ彼方に霞んで
そこに戦火があり七歳の僕は大人たちに囲まれ鉄
路を支える土手に鍋を被せられて伏せ夜空は花火
大会のように明るくて騒がしいその夜焼け失せてし
まったのは生家だけではなくぎこちないかもめの水
兵さんの寺尾幼稚園も柏崎のおばさんと日向ぼっこ
した縁側のある隣家も悪童たちと学校ごっこして餓
鬼どもがオシメ先生とよぶのだがほんとうはヒメキと
いう美しい発音が正しい姫城先生のやさしい眼鏡の
顔が覗いている教室芦穂崎国民学校もいつも喧嘩し
ては負かされてしまう貞夫君の住む向かいの家もわ
がヰタ・セクスアリスの一頁の幼い女の子の家だっ
た角の硝子屋も焼け跡にはガラスの花瓶が飴色に
ねじれて光る
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