雨季/芳賀梨花子
さよなら。ひとりぼっちで家にいたら、クーラーが熱い風を噴出して、私はなにもかもいやんなった。さよなら。町中が重い海風で湿っている夜になにかを考えるのはよそう。セイレーン、私は叫んだりしない。もう、二度と船乗りを誘ったりもしない。私はしばらくぶりに自転車に乗るんだ。船着場のない海辺の町の、仲間入りできない静かに寝静まった住宅街を抜けて、盛り場って言うほどじゃない海辺の町の駅前まで走る。おおかたシャッターが閉まっている商店街に、ぽつぽつとさえないネオンサインが輝いている。たぶん、それは、ちょっといかがわしいお店。セイレーン。町中のバーをまわれば友達がどっかで飲んでいて、私はきっと話し声を枕に眠りにつ
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