広場/吉岡孝次
微笑みが 目を伏せる
レンズを拒むようにして
「もう生きていたくない」
見えないところにも
まだ傷は残っているとのことだ
(春先に
裂かれた痕はむしろ眼差しに深い)
風が吹くたびひどく怯えるので
近頃は仕事も減りだしてきているという
オレンジの服を着せてもそのひとは小さくふるえるばかりで
顔をさえ
上げようとしないのだ
蹲る柔らかいからだを 日は
甘く敲いて過ぎ去ろうとし
樹の影も
とどかない ──
今となっては二年前の
あの屈託のない笑顔が偲ばれるだけだ
弾む心をサッカーボールに擬し
広場の空へ
かるく
たかく蹴り上げてみせた
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