紫陽花/夏嶋 真子
 

手を引かれ歩く。
懐かしい匂いのする君
その面影は記憶の水底
私が潜水夫になって強く握り返すと
つないだ手には水たまりができて
空の色を映す。


薄暗い緑の茂みの奥までくると
君はその手で私に目隠しをして

「水無月の青を待ってはだめ。」

と、言う。
静寂の中で、私をつつむ君の手のひらだけが
私にとって唯一の”外部”だった。
五月の匂いがする。


「御覧なさい。」
君に言われるがままゆっくりと目を開けると
青が並んでいる。
空と連続する私を
一つ一つの小さな世界へと折りたたんでいく、
生まれたての青。



(ああ、そうか。)

[次のページ]
戻る   Point(26)