インセイン、どうして/竜門勇気
だと思った
いつの間にか俺のほうが背丈も越えて
味噌汁の作り方を教えるようになって
そんで今朝のニュースを何度も繰り返して話してる時
寒気が止まらなかったよ
遊び歩いて夜中に帰って
目が覚めたら三枚の毛布と二枚の布団
何度も俺が寒くちゃいけねえと思ってくれたんだな
七月の真昼間は実際寒かった
それからばーちゃんは家にいなくなったものな
神様は無数の悲劇を
地上にばら撒いて
一握りの奇跡で
俺たちを騙していると気づいた
神様なんていねーよ
って思いながら
誰かが俺たちをペテンにかけていると
信じていたかった
投薬と洗脳
何が違うのかいまだに分からない
治療と改造
早くどうにかしてくれ
彼女の中で俺が曖昧になるたび
俺の中で世界がぼやけていく
どうして
ぼやけた脳は時々
俺に優しくするのだろう
いつでもここにおいで
いつでも逃げておいで
俺はもう逃げなくても大丈夫だよ
あの頃逃げ込んだ
その家は今は駐車場になっている
安っぽい車にただ同然で貸し出している
ただの空き地になっている
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