「夏のはじまり」/ベンジャミン
 
夏のはじまりは
いつも雨

何処からともなくきこえてくる
海のうた

(セイレーン)

還る場所をさがすように旅をする
あの波の繰り返しのように響いてくる
記憶のような満ちひきに名前をつける

大きな循環の中で
たとえば誰かの涙の一粒が
気体となって上昇して
やがて降りそそぎ
それがあの懐かしい海になるように

(セイレーン)

夏のはじまりは
そういう雨

なぜだか急に悲しくなるのは
きっと気のせい

自分を悲しくさせようとする
あの雨のせい

僕らはただ循環の中にいて
僕らはただその循環に自然によりそって
小さく呼吸をしているだけ

それを悲しいなんて思ったら
貝が口を閉ざすように
何もうたえない

(セイレーン)

美しい名前を呼ぶ
自分の過去・現在・未来に

それを一つに結ぶ直線
水平線をたどるように弧をえがく

夏のはじまりに
僕は雨

降りやむ頃に歩き出す
あの大きな循環の輪の中へ還るために
  
戻る   Point(12)