通勤快速、下り方面行き/衿野果歩
 
銀色の箱に詰められて
僕らの朝は出発する

おじさんの油の匂いも
おねえさんの香水も嗅がないように
僕らの鼻は退化する


ぎゅうぎゅうに押されても平気です
厚い脂肪が守ってくれます
痴漢しないように必死です
女性の近くではお手上げです
流動に身を任せます
ふんばりは効かない方が 吉


こうこうせいのおしゃべりも
だいがくせいの溜息も聞こえないように
僕らの耳は退化する

こどももけがにんもにんぷさんも
ろうじんも見えないように
僕らの視力は退化する


銀色のレールが続く方へ
僕らの朝は伸びていく

どこへむかっているのかなんて
考えなくても平気です

むしろ考えない方が きち

「おはよう」
「おはよう」
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