林檎/小川 葉
紅い頬を削がれて
恥じらいもなく現れた
少女の実を
次々と切り分けて
皿に並べていく
自らの少女を
どこかに忘れてきた
ふりをしてる母の
秘められた欲望のように
家族の団欒が
林檎の切身で
埋め尽くされていく
私たちはおとなしくして
それを見ている
過ぎていくばかりの静けさに
ふと我に返ると
母は林檎の回転を止めて
包丁を持ったまま
あたしったら
と笑って
すべて剥き終えている
その紅く染まった頬を
ひとつだけ残して
その奥に
少女をひとりだけ残して
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