初詣のコイン/殿岡秀秋
 
立ち止まると
黒子が幕をあげて
回想の舞台があらわれる

三十年も前のこと
大晦日の夜中に
明治神宮に初詣に行った
十二時を過ぎると
賽銭箱にむけて
たくさんの人が硬貨を
人々の頭越しに投げる
そのひとつがぼくの頬に当たって
痛かった

おれもぶつけたぜ
と若い男たちの声がした
わざとやったなと思って
怒りに震えたが
相手を探すこともなく
ぼくは群衆の流れにそって歩きだした

今日も浅草寺の賽銭箱の前に立ち止まると
たくさんの人がいる
背後から硬貨が
ぼくの顔をめがけて
飛んでくるのではないか
と恐れて後ろを向いた

なぜあのとき
声のする
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