美しいくも/北乃ゆき
庭の片隅の腐りかけた胡瓜の上で
どす黒さと白色の縞々な腹部を持った蜘蛛が
不気味な茶色の8本の足をゆっくりと動かしている
この腐った胡瓜の上に居住地を作る気なのか
蜘蛛はひたすらに8本の足を動かし
身体の後部の腺から命の綱を生み出している
粘る糸をじっとりと編みこみながら
糸は強力な粘着性を持って
罠となる居住地を完成させていく
踏み込むものに毒を与え
生き血をすすり
最後に死を与え安楽させる居住地
美しい
その総てが美しい
他者を罠に落としいれ
苦しませ殺す事でしか生きる術のない
お前の縞々の腹部は
この世界に必然的に存在するカオス
だからこそ芥川は
お前の生み出す銀の糸を
最後の希望と語ったのだろう
編み出された
無造作な模様にやがて訪れる残酷な光景は
この世界のたわいもない真実の一片
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