かわいいやつら/佐々宝砂
をこぼしたら拭けばいいのに
なぜこぼしたか
こぼした酒の価値はあるかないか
そんなことについて
論議しだすやつらだった
愛するものに出会ったら
まず傷つけようとした
突破しようとした
それが愛だと信じていた
それがやつらだった
それでも
夜明け近い空に星が消えてゆこうとするとき
その星に手を伸ばすのは
あたしたちではなくて
いつもやつらで
まああたしも星に手を伸ばすくらいのことはしたのだけれど
それでも
あたしはやつらのかわりにならない
かわりになる気もしない
やつらはきわめて愛すべきやつらで
かわいかった
あたしよりはるかに
かわいかった
もういないけど
もうどこにもいないんだけど
あたしたちのアダムは
それでも
あたしたちは生きる
かわいいやつらがもう
この世界のどこにもいないとしても
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