家/小川 葉
 
 
 
わたしの家にある
不思議な窓が
開閉を繰り返すと
屋根の背中を
見覚えのある川が
流れている

見分けのつかない一日の
傍にある一筋に
長い影を落とし
少年は一つしかない
道になっていた

何度も語り継がれ
一枚の紙になるまでに
自らを書き写していく
昔に比べて
とても薄くなった辞書は
わかりやすさと引き換えに
たくさんの存在を
消していったけれど

見分けのつかない
紙たちが
辞書の隙間から零れていく
少年もまた
夕日を胸に抱えたまま

振り向けば懐かしい
わたしの家が
そこにある
 
 
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