カモメの砦/湾鶴
 
青い目のカモメが鳴く
口をこぅと飽けて
喉を震わせず 
声もたてず
静かに
海の音を拾い

岸壁にならぶポプラを
透きとおった舌液に映し
カモメは鳴く

初めて砂をにぎった足の感触を
思い出しながら
今もまた波にさらわれる砂粒を
踏みしめながら

路面ラインの羽
四五度にひらかれたクチバシ
桜色の瞼に浮かぶ青い瞳

ぼくが馬に生まれていたならば

タテガミを脚に絡みつかせながら
芝生のしかれた大理石の馬小屋で

やぱっり前歯をむきだしにしながら
情けない声なんてたてずに
静かに口を飽けて鳴いているんだろうな

初めて母に横腹をなでてもらった
ことなんて思い出しながら

カモメは ヒヒンと 鳴く
海水はもう冷たくなってきた

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