海の人/ふるる
 
して立ち上がる
約束の日に向うの国から
船に乗り帰って来るはずのあの人は
死んだのでも、女の子を嫌いになったのでもなく
鯨のしつこい恋から逃げなければならなかったのだと
鯨はどうやら諦めて
今頃は海底で深く青いため息
大きな泡を女の子は見た気がした
あの人は、帰って来る
女の子は胸に灯った希望を抱いて
涙を拭いて歩き出す
小さな海の人は魚からそれを聞いて
やれやれと首をふり
小さな巻貝の奥でベッドに入り
小さな灯りを消し
穏やかなねむりについた
戻る   Point(19)