免許証/小川 葉
許センターの出入口で
君を待っていた
手を振って
飯でも食いに行こうか
と君に言うと
笑顔で頷き
走って僕のもとへやって来る
抱き上げようとした
僕を透明人間みたいに通り抜けて
僕の背後にいる
髪の長い男に抱き上げられている
おなかすいたね
サングラスなんかして
その男は
僕にはサングラスをかける目も耳もないのに
二人で飯なんか食べに
行ってしまった
時速百二十キロで
ガードレールに突っ込んだ
免許の更新はもう
しないことに決めていた
けれど口実のように
君の無事を知りたかった
君はちゃんと
生きていた
恋までして
ごめんな
と君に言ったけれど
それは風の音にしかならなかった
免許証の更新を
それから僕は
もうしなかった
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