実り/殿岡秀秋
家族で
露天風呂に行った
岩で囲まれた広い浴槽で
父は平泳ぎをした
ぼくは石の床を走って転んで
脚を岩にぶつけた
父が危ないといった
ぼくは向うずねをかかえてうずくまり
痛みをこらえた
翌朝には青痣になった
このことさえなければ
とても楽しい旅だと思った
何かひとつ欠けている
そこにしみができる
小さくても
気にかかることがある
そんなものなのだと
了解するのに
長い月日がかかった
それでいいのだと
思えるようになるまで
さらに長い月日が必要だった
実るには
傷を
巻き込みながら
丸い形になる
時間が必要だ
コトバが様々な色彩と陰影をはらんで
結晶するときにも
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