実り/殿岡秀秋
 
尻が黄緑色の赤いりんご
地球の頬が凹んだ形
よく見ると日本列島のあたりに
小さな傷がある
皮ごとかじると
茶色のしみになっていて
セピア色の記憶がよみがえる

家族で
伊豆の修善寺に泊まった
旅館の裏庭で
三方を深い木々に囲まれた広い池の中に
能舞台が立っていた

家には風呂がなかったので
七歳のぼくは和風建築の
ところどころにある風呂に入っては
走って父母がいる部屋にもどり
しばらく休んではまた手ぬぐいをもって
別の風呂に走っていった

緑の池に群れをなして泳ぐ緋鯉や真鯉と
脚を池の水に濡らして立つ
寡黙な能舞台を
風呂場から眺めた

夜は家族
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