眩しいため息/木屋 亞万
 
め息は
どの電灯よりも夜空を照れさせた


制服姿で自転車を漕ぐ
太陽の鼓動だけが聞こえる夜明け前
橋の手前、信号機に足止めされて
彼女はそっと河原に目をやる
夜通し流れ続けた川の水と、身体を駆け巡る血液が
朝の冷たさに熱を奪われてゆく
空はかすかに表情を緩めて、
足元から氷解していく気配を見せている
彼女は鼻から息を吸い上げて、目を冷まし
脳内の気体を循環させる


うつくしい女性の溜め息が地球を動かしている
眩しい朝に息を吸い、静かな夜に息を吐き出す
彼女を始めて見た時に、
あの呼吸が地球を回していると確信した
あの青い息こそが、この星の源なのだ
たとえ彼女の息が青さを失おうとも
その息が途絶えてしまうことがあっても
それでも地球は回っているだろう


彼女の深呼吸が地球を回しているということ
あの青い息が見えるところまで近づいたことがあれば
誰もそのことを疑ったりはしない

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