歌舞伎町/佐々木妖精
 
を目指しもした
限られた席を限られた顔で埋め
限られた酒を飲もうともした
客足と客引きの隙間を突破し
見知らぬ看板に視界を覆われ
飲み込もうと吐き出そうと
飲まれようと流されようと
決して割れない酒があった
薄められない原液があった
それがなんなのか分からなかった
胃液しかなくなろうと
吐き出せずにいた

歌舞伎町
今はただ 扇動を止めないこの場所のように
青臭い腐臭を放つ発酵体が 胸の中で膨張している

歌舞伎町
砕かれたグラスを拾い集める指
喧噪に紛れた息を嗅ぎ分ける耳
へたり込んだ体を担ぎ上げる肩
朝闇を切り裂く鳥居は 今もただ
飲まれたものを静かに吐き出し
誰よりも早く朝を迎え入れ
誰よりも早く人浴びを始める


歌舞伎町
見覚えのある顔と 真新しい店内
グラスの中でとけゆく氷を揺らし
喉の奥へ流し込む
焼けつく喉 薄まる意思
べたつく氷がほどけ
気道で割れるのを感じる


青臭い息を 手で覆うことも忘れ
語り出す
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