太陽と月と詩/たちばなまこと
よく見える
対岸の土手に自転車とめて
やわらかな若芽がしおれぬように
やさしくやわらかくふれる
ママいやなの
電車がいいの
涙をこぼす子ども
わたしは電車に塗り替えられたい
わたしは黙ったまま電車になって
きみのゆきたいところまで
絵本のおばけみたいに
自分で枕木を打ちながら
ただ走って
京急線がいいと言えばあかに
半蔵門線がいいと言えばむらさきに
小田急線がいいと言えばあおに
千代田線がいいと言えばみどりに
総武線がいいと言えばきいろに
中央線がいいと言えばだいだいに
塗り替えられながら
きみがまんぞくして明日へ眠るまで
走ってもいいんだよ
春が翳る
ひんやりと
朝
いやだいやだと泣く子ども
わたしはいそがしくさみしくて
わかくさいろを抱きしめる
いやだいやだの理由をさぐる
ほんとうはやさしくしたいの
ほんとうはわたしもただの
太陽と月でいたいの
まばたきとためいきだけで
だれかが詩(うた)えるそんざいに
まばたきとためいきだけで
なにかを詩(うた)えるそんざいに
戻る 編 削 Point(14)