ぼくらのエチュード/草野大悟
 
青空が、うかんで消えた吐息の記念に
ぼくは、ヴァーミリオンのツツジを植えた。

妻は、ヴァーミリオンが大好きなおんなだけれど
それを見て黙ってしまった。

妻の魅力的な尻のほんの一部にオムツかぶれができており
それが彼女をすこしだけ不機嫌にさせていることに気づいてはいたけれど

ぼくは
なんだか
むしょうに哀しくなって
不覚にも
妻の前で、はじめてぼろぼろ泪を流した。

妻は、不思議そうにぼくを見つめ
「よし、よし」
と、曲がった右手で頭をなで
「よし、よし」
と、抱きしめてくれた。

そのとき、ぼくは
吐息の中に
なにかが産まれてきた気がして
ツツジのとなりに
青空を植えることにしたんだ。
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