抽象物/岡部淳太郎
遅さを体内に
隠し持って
道行く人にあいさつをする
そのいつもの言葉としぐさ
そんな決まりきったものから
人間は確かなものをつくろうとする
私の遅刻は私の中では
すでに定説だ
いまさら道に出て
気ままに歩いてみたところで
すでに行き交う人もない
だからあいさつもしない
こうして自然のものと
人間や私の中に生じた
人工的なものとを
較べながら
私もまた何かをつくろうとしてみる
それは決して確かなものにはなりえない
遅れてやって来た者ゆえの
抽象物だ
だが人間も
そうそう確かなものを
つくれはしないのだ
(二〇〇九年三月)
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