風に、さよなら/吉岡ペペロ
ベイブリッジ近くの流行りのマンションは
遠くからだと暮らしの明かりがあたたかだけれど
ロビーでこうひとを待っていると
ちゃちでざわざわとしたものにしか思えてこない
ビジネスマンがエレベーターに向かう
そのスーツ姿にその日をまとって
花粉で目がかゆくてこする
留守電の着信が恋人からだ
聞く気になれなくて
その理由を探していたら友人がおりてきた
夜の街にくりだす車窓からツツジの香りがした
小林・益川理論について考えた
ツツジの姿は夜に消されているけれど
ツツジの香りは夜に消されず漂っている
反物質は夜って感じがある
車窓から風が入りこんでいる
風は車が走るから入ってくるのか
もともと地上に吹いていたものなのか
風は消されずこの星に存在しているのか
新橋に着いた
消されていない夜がそこにある
ふと口をついてこうつぶやいた
風に、さよなら
ひとはみな、消されずに存在している世界にいる
死という現象のみが
ひとから世界を消してしまう
あー、なんてざわざわとした理論なんだ
風に、さよなら
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