『こうもり』/東雲 李葉
 
んな顔で歩くんじゃないわよ、と甲高い声で怒鳴られている気がして
目的地よりも一駅前で降りてしまった
私が鳥ならくちばしで突いてやれるのに

幼い頃、みんなに配られるはずの菓子を私だけ貰えなかったことがある
すぐさま不平を訴えたら意地汚いと揶揄された
それから不満を漏らすのが恐くなった
私が我慢して収まるならそれで善いではないか。ああ、なんて平和主義
平等なんぞ糞くらえ。この世は強者のものなのだ
暗い子供だった私には普通に生きる権利はなかった

物語の中のこうもりはとてもとてもかわいそう
鳥にも獣にもなれるのに
鳥にも獣にもなれなかった
誰も寄り付かない暗い暗い洞窟で
皆が寝入る夜になるまでじっと明るい昼をやり過ごす
湿った天井にぶら下がり逆さまの世界を眺めている

かわいそうなこうもり

戻る   Point(0)