ボトル海/湾鶴
 
ミネラルウォーターに沈む電球らで
ボトルの中の水面はゆるい光を着込むと
洛陽に染まる
儚い海で
椅子も防波堤になって追想します

波〜オレンジに騒いで
     配線コードも〜鯰〜

ボトルを揺らす旅
盛…光る波の煌きの中に映像が浮かびます
それはいつも過去のことばかりで
蝉の声のする桑の葉が日差しに透かしでた
太い葉脈と細い葉脈の間にある
涼しげな葉裏の色だとか
坂道の脇にあるガードレールに釘で削られた文字
BAKAそして小さく誰かの名前だとか
はっきりとでも瞬間でよくわからないまま

   そしてまた瞬間
      波が波を掻き消す

わたしはもっと見たくて
潮の匂いのする貝殻を投げ入れると
泡を抱いてボトルの底へ埋ってゆく
静かにそれをながめて
ひとつ またひとつ貝を増やします
潮味の貝に夢中になったボトルの海は
すこしずつ黙ってゆき
一番最後のが終わると波をおさめてしまい
見放された
ミネラルウォーターは
とても静かに冷たくなった




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