足跡/松本 卓也
 
付けられた足跡から
微かにだけど漂う香り
気のせいだとは分かっている
思い違いだと笑いたくなる
けれども
だとしても

季節が過ぎると共に
溜息を零す度に
桜の花弁を踏む毎に

薄れていく記憶と
降り積もる後悔だけが
うたた寝に沈んだ幸福を
ただただ鮮明に写し

告げられた声に誘われるまま
公園のベンチに腰を下ろし
向こうの世界から聞こえる
かつての歌を口ずさんでいた

どこかで間違いに気づいていれば
と、言い訳が今日も一つ
仕事の上に積み重なって
どこに目を向ければ良いのか
どこへ向かって進もうか
見渡す暇もありはしない

内面を見つめるだけの余裕も
自虐を嗤えるだけの猶予も
埋もれた生活の中で忘れ去り
現状がぼんやりと雲の端にぶら下がる

遺された足跡からは
何の匂いもないはずなのに

鼻がどうしてもむず痒い
黄砂も花粉も埃さえ
漂ってなどいないのに
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