私達の美しい獣/千月 話子
 

柔らかく君が微笑んでいた


素直にただいまと言えない

代わりに君の手を取って
2人して目を閉じた


目の奥から濃紺がやって来て
次第に鮮やかな青に変わると
互いの心臓から
1日で1番穏やかな波の音がした


私達の
ぎこちなく繋がれた手の平は
やがて記憶を取り戻したように
私の手が君の形に
君の手が私の形に
変わって行くのだった


繰り返される季節を歩き
いつか君を失くしてしまっても
この手は君を忘れない


私の叙情の生き物が
この平を棲家にして
また 美しい歌を詠うのだから








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