私達の美しい獣/千月 話子
 

あの頃
私は叙情の生き物で
君の全てが詩歌であった


差し出された手の平に
丁度良く収まる
この手を乗せると
合わさった部分は
いつもほの暖かく
淡い色合いの空気が
ぐるりと囲む気配がした


私達の体温は
3月のような春で
さくらんぼの香りが
鼻先を通り過ぎ
誘い出された私の手が
君の手を離れると
寂しげな平から
白い蝶がさらさらと
1羽生まれ舞い上がるのだった


数歩ほど離れると
そこは冬の始まりで
追い付いた白い羽から
零れ落ちるのは
ぼたん雪


凍える息を吐きながら
ようやく我に返ると
日溜りに咲く花のように

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