春/たちばなまこと
 
真似をして目を閉じた。
車内にはエンジン音だけが響いていた。

文化祭
春は一眼レフを首から下げて、必死にクラスメートを写していた。
好かれようとする態度がわざとらしくて
春は素直だなあ、って遠くから見ていた。
私にファインダーが向けられたことに気がついたが、知らぬふりをした。
春が思う私の姿を見てみたかったし
みんなみたいに“ピース!”なんて、子供じみたことはしたくなかったからだ。

私の記憶に、卒業式の春が居ない。
クラスメートでお金を持ち寄って、花束を渡しただろうか。
もしかしらたああ見えて、人一倍みんなを愛していたのかもしれない。
感慨をこぼす前に、職員室へ去っていったのだろうか。
春は後に教頭になったと聞く。
生徒を扱う機会が減ったから、今は少し楽をしているかもしれない。
いつか遅刻を「おまえはかわいいから」と見逃してくれたお返しに
「先生はかわいいひとですね」と今なら言えるが
私たちは大人になりすぎている。


戻る   Point(8)