紫苑/柊 恵
まと夢中で話してしまって、
それきり賀来さまは来なかった
あ、篤之進さまのことは あなたも知ってるわね
一緒に働いてるなんて、感慨深いわ…
美鈴屋の若旦那さま
はじめは珠樹ちゃんのお客様だった
あたしは珠樹ちゃんに言ったの
ここは、男の人が遊びに来る場所だから
恋なんかないのよ。って…
なんであんな見てくれだけの人に本気になったの
すぐに乗りかえられるの分かってた筈なのに
あたしを恨むなんて、お門違いだよ
あたしは珠樹ちゃんの客を取ったりしない
そんなに不自由してない
逆恨みされて
刺されるなんて思わなかった
まだ二十歳を少し過ぎたばかりだった…
翠月和尚が駆けつけて、紫苑太夫の遺骸を引き取ってくれた
穢れた あたしを懇ろに葬ってくれた
あたしは、おはつ
心は十三の あの日々のまま
翠月さまの読経が涙で途切れて
あたしは天へ還ったの
戻る 編 削 Point(4)