空の皮膜/塔野夏子
皮膜を張った空に
午後の白い陽は遠く
道は続き
かつてこの道沿いには
古い単線の線路があり
そしてこの季節になると
線路のこちらには菫が幾むれか
線路のむこうには菜の花がたくさん
(その頃誰と歩いたのだったか)
けれど今それらはみな取り払われ
この道は色を失くして
白い陽は遠く
ひとりゆく足音もくぐもり
(何を話しながら)
半ばは夢の中のようで
けれど夢ではなく
道は続き
歩き続けてゆけば
やがて空の皮膜の向こうに
透けて見えてはこないか
単線の線路と
菫と 菜の花と
(どんな想いを抱いて)
あの頃と
――見えてくるはずもない
色を失くした道は続き
白い陽はいっそう遠ざかり
午後は長く
半ばは夢の中のように
けれど夢ではなく歩いてゆく
くぐもった足音で ただひとり
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