エネルギー/片野晃司
きのう
飛び去った飛行機のように
蛾が震えていた
取り残された最後の技師が
数値を記録し続けている
薄汚れた窓硝子の向こう
森を走っていく少年あるいは少女の白い素足が
境界を飛び越えながら
血まみれになる
笑いあい殺しあいながら
なつかしい速度で
森を捲り上げていく
木々の
匂いのない死
切り倒され
塗り固められ
母の手紙すら届かない場所で
いちめんの
子供らがいっせいに靴を脱ぐ
きのう
わたしたちは生まれ
青い光を見た
そして
誰も助からない
観測所に残された技師の
かすかな物音
壁の向こうの運河から溢れ出す
黒く苦い水が
わたしたちの足音
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