海へ/石瀬琳々
 
また春の風が
額を過ぎた
ふっと
潮の匂いがした
ような気がする


なつかしい声


振り向くと
海がそこまで迫る
海は光る
反射して鏡のように


指を浸すと
あなたに触れる
その冷たい頬
瞳からこぼれる涙


なつかしい人


あふれて
いつか海は
指をすり抜けて
乾いた風になり


鳥が一羽
また一羽と
飛び立ってゆく
この心から
彼方から



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