散春歌/和歌こゆみ
 
              

        ただそのひとでしか
                      それでしか埋まらない
                                    淋しさ、というものがあると。








その声をきいていたよ。

埃にまみれたアパートの隅で
ひび割れた踊り場で
いつか出会った芝生の空き地で



晴れわたる4月の空
目覚めたての空気のなか
白い鳥が舞うように 飛び散るように
薄汚れた僕の
心を切り裂くように



その手をはなさないで。

やさしい雨の音
岬で浴びたその滴
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