歌謡曲マチス(傘を忘れた人)/カンチェルスキス
連続する雨音に
途切れがちな呼吸のリズム
頼りない影を投げ出して
傘を忘れた人が
部屋で泣いている
電線の滴が地面に落ちる瞬間
誰もいない公園のベンチは
雨に打たれ
信号待ちのサイドミラーに燃えた
真っ赤な傘の下
きつく閉じた唇
地下鉄の階段を駆け足で
みずたまりがつながって
大きなみずたまりになる
引き裂かれても平静
数え切れない傷のような雨
固く閉じた心で
わけもわからず流した涙は
足の爪先から濡らして
傘を忘れた人の
誰にも聞こえない嗚咽に変わる
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