Doll/ツキチカ
後悔する程…
執着する物なんかない」
吐き捨てられる言葉
「…ではどうぞ。
救いの訪れない話を」
―男は安堵の顔付きで崩れ落ちた―
その店の中には男が一人
その手は力尽きたように
床に投げ出されている
退廃的な空気に惹かれて
蝶番を軋ませ踏み入れた男
マスターはそれを棚に陳列する
その隣には若い男
その隣には紅い服を着た女
それは全てマスターの人形
二度と救われる事の無い話達
「ようこそ我が館へ」
満足そうに嗤う声
答えぬ人形に
美しいテノールを注ぐ
「君はこれで救われる。
本当に救われない話は…
私だけしか知らない。
誰にも味わわせてやりはしない。
本当に救われないのは俺だ」
そしてマスターは今宵も迷って辿り着いた
ヒトカタを眺めて笑い
救われない話を待っている
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