父へ 出せない手紙/舞狐
父の命日がある季節
春
お墓参りもあまり行けず
貴方がどんな人だったか
よく知りません
私が私として生きている中で
一番イヤだったのは
貴方の世界に引きずり込まれ
貴方の奥さんに呼ばれ
書類に捺印したときでした
よく知らない貴方と
最後の別れの時
なぜか涙がとめどなく溢れ
自分が半分
消滅してしまうような気持ちになりました
学生の息子さんと
就職したばかりの娘さん二人
知らない親戚に囲まれて
私の生家は
他人の家でした
一度病院で
母と私と貴方で
待合室で話ましたね
母と私と貴方
家族だったんですよね
たぶん
昔は
あれからもう何年になりますか?
貴方の命日が
今年もやってきます
私がケーキのろうそくの火を吹き消す日
貴方の命日
春は私には
淋しい季節です
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