[リンゴ]/東雲 李葉
赤い果実を一口下さい。
青色でも褐色でもなく真っ赤な真っ赤なその色を。
甘い蜜を吸わせて下さい。
苦い思いは沢山なのです。
よじ登った林檎の木から見下ろした町並みが、
赤く染まる夕暮れ時、違う場所に見えたように。
あなたという人に出会ってから、
私の世界が全く違って見えたのです。
高い所に手が届かない未熟な私に、
優しく笑って柔らかい風を吹いてくれる。
あなたという人に出会ってから、
私の世界はようやく両目を開けたのです。
蜜のように甘い声にほだされて、
自分の手足も見えないまま落ちてしまいそう。
如何やってもその実には届かなくて、
手を伸ばすことさえ叶わないのです。
赤い果実を下さい。
一口だけでもどうか下さい。
私はあなたを齧りたいです。
戻る 編 削 Point(1)