アルス・コンビナトリア:結合術 (部分)/がらんどう
 
の声ほどきれいな声はないよ。それで王子をたらし込もうと思っているんだろうが、その声を私にくれないことにはね。私のとっておきの飲み薬と引き換えなんだから、お前さんの持ついちばんきれいなものが欲しいのさ」
「でも、あなたに声をあげてしまったら、私には何が残るのかしら」
「きれいな姿に、優雅な足取り、もの言いたげなまなざし、男の心をとらえるにはそれで十分なのさ」
そう、それで十分なのだ。なにせ、私の手元にある干乾びた人魚は、はっきりと醜いのだから。そう、醜い。醜い。醜い女であった。彼女は醜い女であった。彼女。飛び込んだのは人魚ではなく、醜い女であったのかもしれない。私の記憶はその可能性を訴える。私
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