アルス・コンビナトリア:結合術 (部分)/がらんどう
 
いうことが言えたものだ。くそ、ホメロスだって盲目であったではないか。見えていないのは奴だって同じことだ。おまけに奴はその実在すら疑わしいときている。そもそも「ホメロスも記すように」だと。嘘だ、ホメロスは記してなんかいない、書いていない。ホメロスが仮に実在したとしてもだ。彼は語っただけで文字を書いてはいない。いや、そういう意味じゃない。「オデュッセイア」には翼あるセイレーンなんて登場しないのだ。それは「オデュッセイア」ではなく、赤絵の壺に刻まれた姿であり、我々の目が我々の記憶を騙しているだけだ。ただホメロスのように盲目であるものだけが、視覚に騙されることなく言葉となった記憶を扱うことができる。

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