チャウシェスクの赤い色/桐野修一
空気は澄んで
皆心ここにあらず
旅立つ若人は靴紐を何度も結び直し
浮浪者の群れは一夜で勇者の行進へと変わり
神経質なウエイトレスは口紅の色を三度も変えた
余命幾ばくもない老人は震える指で天空を指差し
風に運ばれた綿毛の群れは中年紳士の口を遮り
セクリタテアの青年は青白い顔をしてただ呆然と立ちすくんでいる
時が・・・迫る、迫る、迫る、迫る、迫る
かつて神の預言者が降誕したという12月の寒い昼下がり
自慢の演説を大衆が奏でるアンデルレヒト・チャンピオンの替え歌で
かき消された
赤い服を着た道化師は
そんな日に文字通り真っ赤な鮮血を飛ばして死んだ
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