二千九年、LOVE/捨て彦
りを思い出し、少なからず心は動揺。ナンシイが其れを悟られまいとして何時もよりほんの少し語気が上がッた事を伊藤だけが気づいていた。
「んぢゃァ、近い内に皆で約束して行ッてみようぢゃないか。イヤ、玉には別の場所で此の会合を開いてみるのも、新鮮で楽しいものだろう」
伊藤は其の提案に対する相槌も適当に、今日の会合が始まる前のナンシイの言葉を反芻していた。
芙蓉の我等に対する思いは一体どういうものなのか。今日の会合での彼女の態度を見る限りナンシイの意見が真実であるとは到底思えなかッたが、アア見えて彼女は本音を隠す傾向がある。其れは彼女の持ッている慈悲深い性質の裏返しであり、必ずしも悪意から出るものでは
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